Client Interview.
未来の介護業界のために
新たなモデルケースを作りたい
公的な介護保険の中でのサービスを提供しているんですが、国はお金がない中で、高齢者は増えていく。保険給付が狭められていくことになるんです。
となると、自費と公的なサービスを併用して利用する方が増えていくことは事実。その中で自分たちにしかできない独自の介護サービスを常に意識してやっていますね。
地域的なことを言うと、この町は過疎化が進んでいるんです。最近“地域活性化”なんていう言葉をよく耳にしますが、「一体どういう状態になれば活性化された状態なんだろう?」と感じています。
町には子どもの数自体多くはないにもかかわらず、昨年私の会社で保育園を作ったんです。方針は「企業主導型」と言いまして、一般家庭からの受け入れと我々の従業員向けの受け入れを行っています。保育園の隣が小学校になっていて、介護施設もあるということで「多世代の交流が作れるモデルケースになるのでは」と考えたんです。それで高齢者の所に子どもが来るとその子どもの親も来て…というふうに交流が生まれたりすることも一つの地域活性なんだろうと思っています。
我々の会社の理念は「人は財である」です。
介護事業をメインとしている企業としては“超”がつくほど抽象的なことだと思うんですが、僕は関わる人でサービスを作りたいと本気で考えているんです。
そこで現場で輝くスタッフをもっと良く見せたい、という気持ちが漠然とありました。簡単に言うと、これまでのスタッフ用ユニフォームって、パッと見ただけで介護業界の人だなっていうのがわかるようなデザインなんですよね。だからこれまでは、仕事が終わると皆すぐに着替えていたんです。
それを見たときに、『なんで着替えるの?』って聞いたことがあったんですよ。そしたら、『これだと買い物に行きにくい…』という正直な答えが返ってきたんです。それってどうなのかなって考えたときに、このままだとマズイなという問題意識が芽生えました。
また、3年くらい前からおもてなしに力を入れ始めたんですが、元ホテルマンの経験のある介護士講師の方に来てもらったことがありました。その方の立ち振る舞いがとにかく素晴らしくて。でもその方は、『常日頃こんな振る舞いではないですよ。元ホテルマンというプライドで演じてるんです(笑)』と言ってたんですね。それを聞いて、おもてなしする上でもやっぱり格好=身だしなみってとても重要だなって思ったんです。
そんなときに、前々から認知していたUDCさんと何かできないかというふうに考えたのがきっかけでした。
担当してくれたプロデューサーの牛山さんは、最初に『ユニフォームは一つの“景観”である』ということを教えてくれました。「これを着ていたらうちのスタッフだ」ということを一目でわかってもらうこともうちの強みになると確信しました。
介護業界のユニフォームって、黒系の暗い色がタブーなイメージがあるんです。それは葬儀などを連想させてしまうからなのですが、うちのスタッフを見ると、半袖シャツの上に黒系のカーディガンをよく着ていたんです。そこから「黒とかネイビーでもありだよね」って流れになって最終的に今回の制服ではネイビーになったという経緯がありました。
デザイナーさんに希望をお伝えさせていただいた部分では、他の介護施設では先ず取り入れていないデザインを採用したいということでした。そこから「ブルゾンのようなジャケット」の“ブルジャケ”を提案していただいて、牛山さんとも徹底的に話し合った結果、振り切る意味でも採用を決めたんです。
ある程度制服のデザインが決まってきたところで、企業としてのエンブレムを入れたいと思うようになりました。デザインを考えているときに、「そもそも、我々の”コーポレートカラー”って何色なんだ?」ってところから始まりましたね。これが意外と出てこなくて。まぁ、はっきり言うとなかったんですよ(笑)。ただ、若いスタッフから『この施設のスタッフは多様な個性を持っている人の集まりだからいろんな色があっていいんじゃないですか』という声が挙がったんです。そんなところから、このワッペンデザインは様々な色と大きさの違う丸で構成されています。ちなみにこのデザインはそのスタッフが作ってくれましたし、今はこのデザインを名刺にも採用しています。
一緒に働く仲間こそが“財”。
経験がない人とこそ、仕事をしてみたい
この新しいユニフォームをお披露目するにあたって、今までは全く介護業界に携わったことのない人にも認知してもらい、働いてみたいと思ってもらえたらとても嬉しいです。
介護業界は人材難と言われているのですが、その理由の一つとして介護業界に新たに飛び込む人が少ないということがあります。我々の施設でも募集をしたときにやっぱり介護を経験した人の応募はあるのですが、未経験の方の応募は少なくて。僕としては、やっぱり未経験の人にこそ興味を持ってもらって、一緒に仕事をしてみたいと思ったんです。
それこそ、うちの施設ではヨガスタジオを作ってそこでスタッフが一部のヨガを利用者に教えていたり、スタッフが作ったアロマオイルを施設内で使ったりしてるんですけど、そんなふうに自分の強みを生かして働ける場を提供できるので山陽グローバルパートナーズという会社にも興味を持ってもらえたら本当に嬉しく思いますね。
Producer Interview.
山陽グローバルパートナーズさん
とのプロジェクトを終えて
介護業に関しては、自分の母親がヘルパーだったことから認知はしていましたが、ここの施設に関してはスタッフ・利用者ともにとてつもなく明るかった印象を持っています。そこに価値があるなと思いましたね。
藤井社長の思いを始めに聞いたときに、「この施設をどうにかしたい」ということよりももっと視座が高くて、「介護業界がどういう現状で、どうなっていくべきか」というものを明確に持たれていたので、まずは僕自身が介護業界全般について知ることからスタートしたんです。
先ほど母親のことも述べましたが、自分の母親が仕事として人生を費やしている場所であることを改めて考えたとき、介護に携わる人たちの家族もその働き方に関して心配なんだろうと感じた部分もありました。
そういう意味では、山陽さんのような会社が全国に増えていくということが、介護業界の偏見や先入観を変える意味でとても大事だと感じたので、我々UDCとしてご一緒できる価値が非常にあるなと感じました。
異例だったのは、介護ユニフォームにおいて「ジャケットスタイル」を提案したことですね。
一般的にスタッフさんが作業する際ってジャケットを着用していることはほぼないと言ってもいいくらいだと思います。それは、やっぱり「ジャケットよりもポロシャツの方が動きやすいでしょ?」と感じる方が圧倒的に多いと思うんです。その中で、藤井社長がそこを振り切って採用してくれたことが一番大きかったと思います。
それもただスタッフの意見を無視して振り切ったのではなく、ちゃんとデザイナーの岡さんにも施設に来てもらって、スタッフからヒヤリングをした結果ここに落ち着いてるということもあります。
現場で働く人のリアルな声を聞くために、先ずはいくつかのデザインを提案させていただきました。ユニフォームには大きく分けて、ワーキング/サービス/メディカル/オフィス、という4つの領域がありますが、介護はメディカルに値するのが一般的なんです。しかし、藤井社長は『本来メディカルではなくて、サービスだよね』とおっしゃっていて、僕も同じ考えだったことから、エプロンではないけど割烹着をオシャレにしたようなものや、はっぴのような旅館の女将さんが着ているようなものをジャケット化したものも候補に含めましたね。その結果、藤井社長とスタッフさんに選んでいただいたのがこのブルゾンジャケット(ブルジャケ)ということです。
ジャケットだけれどもガチガチにするイメージはなく、僕らの中では“柔らかさ”を残したかったんです。だから衿の部分はリブ仕様にして色は白を採用しました。
この施設で働くスタッフさんの仕事は、まずは車で利用者さんをお迎えにあがることから始まります。そういう意味では、この施設に来る前から利用者さんとのコミュニケーションは始まっていて、しかも冬場もユニフォーム姿なわけですから、衿は立てられて首元が温まる仕様にしました。
「ユニフォーム」というものについての考え方を変えていきたい思いが強くあります。つまり、ユニフォームという役割をどのように拡張していけるかが課題。山陽さんを間近で見ていてわかりましたが、介護という概念を超えて人との関わりを拡張しているいう部分が自分の中で完全に合致した部分でした。
制服に限らずなんですが、「自分がもしクライアントさんの立場だったら今一番何を求めているか」を考えるようにして“自分事”にすることから始めます。それでいて、クライアントさんからの希望をただ表現するのではなくて、一度自分の中で消化した上で、「本当はこうあるべきなんではないか」という具体的な提案をさせていただくことがほとんどです。なので、もし僕らUDCでなくてもできる案件であれば、わざわざご一緒しないというか…逆にもったいないと感じてしまうかもしれません。
また、以前別の機会で制服のご相談をいただいた際に『実際、何割の社員が満足する制服だとそれは“成功”と呼べるのか』というようなご質問をいただいたことがあります。制服の難しいところは、様々な価値観や好き嫌いを持った人たちが一つのデザインを着る必要があるところにあります。ですが、デザインというのはどこまでいっても好き嫌いがあるものです。かといって100人が良いと思うものを作ろうとするとごく普通のデザインになってしまうんですね。だから、好き嫌いではなく「これこそ我が社を表す制服だ」とスタッフさんが言えることが大事だと思ってます。つまり、「なぜこのデザインになったのか」というのを彼らに理解してもらう必要があるんです。なので、ただ制服を渡すだけではなくて、例えば制服のコンセプトや制作背景、こだわりのポイントなどをまとめたスタイリングブックなども作るようにしていて、僕らやデザイナーがどういう気持ちで作ったのかをお伝えできるようにしています。
既存のユニフォームの着用ガイドラインって、基本的に「やってはいけないことリスト」なんです。それだと士気が下がるわけですよね、学校の校則と一緒で。だからこそ「こういう意図で作っているからこのような着方をしてほしい」と書くようにしています。
デザインをして製作をして納品をしたら終わりではなく、着方までしっかりと提案してあげるのが僕らの仕事だと思ってます。
Designer's Comment.
僕の考える“ユニフォーム(制服)”は、「企業アイデンティティ」「デザイン」「機能」の融合です。この3つの要素がなければ企業としての制服は成り立たないと思っています。さらに企業のジャンルによって、どんなディテールが必要になってくるかで機能の入れ方が変わってきます。
「企業がこう在りたいというメッセージをイメージして、デザインに落とし込む」。こんな思いを軸に、これまでには様々な業界のユニフォームデザインをさせていただき、「ナチュラルスマイル」という介護士向けユニフォームのカタログも立ち上げました。
今回、山陽さんの施設を訪問した際に、「ここは普通の介護施設じゃないな」って感じたんです。それは、介護士さんと利用者さんが一緒に何かを作ったり、同じ時間を共有しているところにサービスの本質があるなと思ったから。
確実に“医療感”は皆無でしたし、おじいちゃんおばあちゃんが本当に楽しそうで。そんな出来事から、山陽さんならではの「クラブブレザー」を僕は作りたいと思いました。
生地自体が伸縮性の高いので十分動きやすいんですが、さらに動きやすく快適にするために背中に配置したメッシュ付きタックを付け加えました。
今回の制服で特徴的なのは、右ポケットに付いているネーム&ペン差しですね。これは新しい発見でした。
従業員の方は自分の名前がわかるように名前を強調できた方がよくて、ペンもよく使う。介護の場合、胸ポケットに名札やペンがあると、利用者さんを傷つけてしまう恐れがあるため、腰位置のポケットに配置することにしたんです。
ただ、施設以外に立ち寄るときに名前がもろに出ているのは避けたいという希望から、ポケットの中にしまえる仕様になっているのも特徴です。
そもそもデザイナーの自分へのミッションとしては、『革新的なものを提案してほしい』だったので、この“ブルジャケ”を採用してもらうことができてとても良かったと感じています。